殺生の儀式

今からこの猪を絞める。

生き物から肉へと変わる瞬間をどうしても自分の目で見たかった。

小さな檻に入れた猪にワイヤーを噛ませ頭を固定させる。

槍のような大きなナイフで心臓めがけて一突き。

これは熟練技だ。

猪は暴れわめくことなく、すーと息をひきとる。

それはまるで静寂の中で行われた儀式のようだ。

暴れて抵抗する猪を男衆が必死で抑えながら殺める姿を僕は想像していた。

これなら肉へのストレスもない。

手際よく内蔵を出す。

まだあったかい内蔵を流水で冷やす。

パーツごとに分けながらきれいに洗い流していく。

と簡単に言うが、これが結構大変。なかでも、

大腸に入っているうんこを出す作業がなかなか難しい。

悪戦苦闘しながら僕も身にしみて内蔵の大変さが分かった。

「内蔵は安く手に入るが手間ひまがかかる。」という本当の意味が分かった。

こうなれば肉にしか見えない。

さっきまで動いていたのに。なんか不思議。

猪を育てている山本さん夫婦。

いつ行っても温かく迎えてくれる。

お昼ご飯までごちそうになっちゃった。

で、僕の結論。

野生のものより断然うまいし、確か。

ジビエは本当に信頼できる猟師が近くにいないと無理。

仮にそんな腕のいい猟師がいたとしても内蔵は食べることができない。

 

だから僕は、レストランとして確実性のある山本さんが育てた猪を選ぶ。

 

 

山本さんの人柄が好きってのもある。

 

 

 

 

 

 

 

自然の力

僕らは、東御市の小山さんに会いに行った。

小山さんは自分たちで葡萄を作りその葡萄でワインまで作っている

ワイナリーの生産者である。

ここは南斜面のなだらかな丘陵地。日照時間も長い。昼夜の寒暖差もある。

水はけもよい。地中のミネラルも豊富だ。

小山さんは言っていた。

「この土地がいいワインを生み出す。僕はその手助けをしている。」と。

僕はふと、牡蠣の養殖をしている矢竹さんを思い出した。

二人の言っていることは全く一緒だった。

 

尽きることない小山さんの話は楽しく、分かりやすく、そして希望に満ちていた。

 

力強い土壌があれば、いいワインができる。

力強い食材があれば、うまい料理ができる。

 

だから僕は探しに行く。

もっと僕の料理がおいしくなるために、、、

 

 

 

その先の道へ

毎年恒例の飯田農園のりんご。

収穫はすべて終わったようだ。

今年のりんごは自信作。ここ数年では一番いいとのこと。

去年の反省を生かして、相当気を使って一年管理してきたという。

実を結ぶとはまさにこのことだ。

手塩にかけたりんごを箱詰めして出荷中。

全国に毎年この時期を楽しみにしている人がいる。

それが飯田さんのやりがいでもあり、生きがいでもある。

だからこそ妥協せずいいものを作りたい。

自分が納得するものを作りたい。

飯田さんはずっと笑顔で僕にりんごの話をしてくれた。

自信に満ちた笑顔だった。

 

去年より今年。今年より来年。

僕も今の自分に満足してはいけない。

今よりもっといいものが作れるはずだ。

怠ってはいけない。

進化を止めてはいけない。

 

その先に道はある。