たいして息子に興味のない親父が5年ぶりに諏訪に来た。
目的は一つ、きのこ狩りだ。
きのこ狩りがしたい。ただその一心だ。
ついでにDANLOで食事でもするか。そんなのりだった。
うちの親父はとにかく勝手な男だ。
この時期きのこは厳しいよ!と言ってるのに
何かあるだろ!と言い張る。
自分の都合が最優先。
親子で初めて山に入った。
そんな親父だ。あっという間に姿がない。
まずい。これはまずい。完全に見失った。
早々に切り上げ私は車にもどった。
果たしてあの男は元来た道をもどれるのか。
あぁー厄介なことになった。
携帯を鳴らしても一向に出ない。
そろそろ仕込みの時間だ。帰らなくては。
あの人のことだ。
自力で何とか諏訪まで帰ってくるだろう。
僕は山に親父を置いていく覚悟を決めた。
これ以上は待てない。
その時だった。ひょっこり親父が姿を現した。
にこにこしながら満足そうに戻って来たのだ。
いろいろ採ってきたから見てくれや。
こっちの気持ちなんて知ったこっちゃない。
そんな思いをこの人に言っても響かないのはわかっている。
みそもくそも一緒になったきのこを選別してあげた。
半分以上は食えない、もしくは得体の知れないきのこ。
こんなもん採って来るな!と心の中で叫んだ。
楽しそうにきのこを採っている親父の姿を見て
俺、親孝行してるな、と思った。
「また、来年もよろしくな!」そう親父は言って諏訪を後にした。
嬉しいようなめんどくさいような。
複雑な息子心であった。